参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
衆議院が解散になりました。総選挙は9月11日が投票日です。日本経済が潜在力を活かしきれない原因は、民間部門(家計、企業)の資金を公的部門が過大に吸収し、それをムダ遣いしていることにあります。投票行動の判断材料として頂くために、郵政改革の論点、総選挙の争点をお伝えします。ご参考になれば幸いです。
郵政事業には郵便と金融があります。今問題になっているのは金融です。郵政事業の金融業務(郵貯・簡保)が340兆円もの国民の資金を集め、国債や財政投融資制度を通じて特殊法人等にムダ遣いされていることが問題の本質です。
郵貯・簡保は「入口」であり、国債、財政投融資制度、特殊法人等が「出口」です。小泉首相は「入口を改革すれば出口も改革される」というレトリック(修辞、比喩)で郵政民営化法案を宣伝していますが、残念ながら「出口」改革については何も具体策が盛り込まれていません。
むしろ、民営化によって預入限度額(現在1千万円)がなくなると、かえって「入口」が肥大化し、さらに「出口」でムダ遣いが行われるリスクがあります。ここが争点のひとつです。
なお、郵便は万国郵便条約で保障された基本的な公共サービスです。民間参入を認めて効率性を追求しつつ、国民が選択可能な「民」と「官」の両方のサービスが共存することが求められます。
「民」にできることは「民」に、というキャッチフレーズは当然のことです。しかし、その実現方法はふたつあります。
ひとつは、「官」が今現在「民」にできることをやっているので、その「官」を「民」にするという看板のかけ替えです。看板のかけ替えでも、本当に「官」が「民」になるなら多少は意味がありますが、政府出資の「国有株式会社」は本当の「民」ではないことに留意する必要があります。これでは民業圧迫は解消されません。
もうひとつは、「官」がやっている「民」業があれば、それを手放す、止めるという選択です。個人的には、こちらの方が本当の「民」にできることは「民」に、という対応だと思います。郵貯・簡保に関しては、規模を縮小して「民」業を手放すことこそが、適切な対応だと思います。
郵政事業の担っている役割は、都市、地方、中山間地(農漁村など)でそれぞれ違います。郵政事業が担っている公的な役割、国民的合意を得られる役割がなければ、業務を止めればいいことです。
しかし、実際には放棄できない公的役割があります。それは、金融排除に対する対応です。
金融排除という言葉は耳慣れないかもしれませんが、欧米では普及している言葉です。民間金融機関のない(少ない、利用できない)地域の国民、民間金融機関に預金口座を持てない国民が発生することを金融排除と言います。
市場原理では解決できない問題です。市場原理とは、企業経営(ビジネス)として成り立つかどうかを基準に判断することです。過疎地や低所得者はビジネスメリットの少ない取引対象ですから、金融排除に直面します。経済学には「市場の失敗」という言葉がありますが、金融排除は「市場の失敗」のひとつです。
「市場の失敗」に対して対策を講じることは、まさしく政府の役割です。つまり、「官」にしかできない、あるいは「官」がやらなければ誰もやらない仕事です。したがって、過大になった規模を縮小して、金融排除に対応することこそ郵政事業に課された使命です。
今日では、中山間地を中心にひとり暮らしのお年寄りのライフライン(年金の受け取り窓口など)としての役割も果たしています。郵政事業発足当時(明治時代初期)にはなかった今日的役割と言えます。
この論点は、上記1の「出口」改革と関係があります。小泉首相がよく使う言葉ですが、「官」から「民」に資金が流れるということを表現しています。
国民の皆さんの資金は「家計」→「入口」→「出口」というルートで流れます。「官」「民」の区別で申し上げれば、現在は「民」→「官」→「官」となっています。小泉改革はこの「入口」を国有株式会社にすることで、「民」→「民」→「官」にすると言っていますが、これは「入口」の看板が「官」から「民」になるだけです。国有株式会社はとても「民」とは言えませんが、百歩譲って小泉首相の主張を受け入れたとしても、むしろ「入口」→「出口」の流れは「民」→「官」となります。「官」から「民」ではなくて、「民」から「官」になってしまいます。変ですね。
「官」から「民」への資金の流れを本当に実現するためには、「出口」改革が不可欠です。しかし、小泉首相の郵政民営化案は「出口」改革の欠けた内容になっています。
その証拠が6月1日の経済財政諮問会議の資料です。郵政民営化に伴う2003年から2017年にかけての資金の流れの変化を示すチャートです。
この資料の説明によれば、郵政民営化によって金融に占める「民」のウェイトが高まることだけが強調されています。定義上、郵貯・簡保が「官」から「民」に変わるので、当たり前の結論です。つまり、あくまで「入口」の話であって、「出口」のことではありません。しかも、政府出資の国有株式会社ですから厳密には「民」とは言えません。
問題は、その間の政府部門の資金調達、つまり郵貯・簡保の「出口」についての情報が説明されていないことです。この資料によれば、政府部門の資金調達額は、2003年の610兆円から1030兆円に増えています。日本全体の資金調達額に占める政府部門の割合も73.5%から75.8%に上昇しています。これでは「官」から「民」へ、とは言えません。
「入口」の話ばかりが強調され、「出口」については国民に説明していません。こういう広報手法のことを「選択的情報開示」と言います。いわゆる情報操作であり、昔風に言えば「大本営発表」です。
なお、上述の経済財政諮問会議の資料(チャート)をご希望の方は事務所までご一報ください。お送りします。
以上の内容を整理すると、対立軸は意外に鮮明です。「入口の看板かけ替え+拡大路線」の小泉改革か、「規模縮小+出口での徹底的ムダ遣い糾弾」の岡田改革かの対立です。「見せかけの小さな政府」対「本当の小さな政府」の対立とも言えます。
そもそも、この4年間で公表されているだけで約100兆円の借金を増やした小泉改革に「小さな政府」を語ってほしくありません。しかも、争点は郵政改革だけではありません。
総選挙という以上、日本をどのような国にするのか、様々な分野の政策をどのようにしていくのかという全体像=マニフェスト(政権公約)が問われます。郵政改革だけがクローズアップされるのは奇妙なことです。有権者の皆さんには、是非、マニフェストを比較して投票行動を決めて頂きたいと思います。
岡田改革は、年金をはじめとする社会保障制度の抜本的見直しにも取り組みます。もちろん、議員年金も廃止します。とりわけ、税金のムダ遣いとは徹底的に闘うことを第一の目標としています。税金のムダ遣いは郵政事業の「出口」改革とも通じます。国民の皆さんの税金をムダ遣いすることは政府の犯罪行為であり、経済学の世界では「政府の失敗」と言われています。
岡田改革は「政府の失敗」を正す一方で、「市場の失敗」に適切に対処する正しい政府をつくることを目指しています。
また、日本の政治は議院内閣制(政党政治)と議会制民主主義(二院制)を二本柱としています。議院内閣制は、与党と内閣の政策が一致することを前提とした制度です。さらに、議会制民主主義、とりわけ二院制を採用する議会制民主主義では、参議院は衆議院に対するチェック機能を果たし、参議院で否決された場合は法案を練り直して再提出するのが適切な対応です。
こうした憲政の常道を無視した小泉首相の国会運営の是非も問われています。今回の物事の進め方の正当性を主張するならば、小泉マニフェストには、議院内閣制から大統領制または首相公選制への転換と、二院制廃止を盛り込まなければ整合的ではありません。
外交問題も重要です。ご説明すると長くなりますので、外交についてご説明させて頂いたメルマガの前号をホームページからご覧頂ければ幸いです。
いずれにしても、総選挙の実施には相当の税金が投入されます。国、自治体全体でかかる税金は約1千億円(総務省の支出だけで約7百億円)になるでしょう。「出口」改革が本丸であるにもかかわらず、「出口」改革を含まない「入口」改革を主張し、そのうえ単一のテーマを争点にして総選挙に税金を使うことは、本末転倒と言わざるを得ません。単一のテーマで国民の判断を仰ぐ場合には、国民投票という形式で行う方が適切だと思います。
不器用で愚直かもしれませんが、ウソを言ったり、パフォーマンスをすることなく、正々堂々と総選挙に臨みたいと思います。
(了)